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東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)299号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実、第一引用例に審決認定の記載があること、本願第一、第二発明と第一引用発明の一致点及び相違点が審決認定のとおりであること並びに第二引用例には審決が認定したその表面に二酸化珪素の粒子が結合されているがやはり基材が結晶性芳香族線状ポリエステルよりなるものが記載されていることは当事者間に争いがない。

二 そこで、先ず本願第一、第二発明の内容について検討する。

前記本願発明の特許請求の範囲1、2項及び成立に争いのない甲第二、第三号証によれば、本願第一、第二発明は、光学的情報記録材料及びその製法に関するもので、本願明細書(甲第二号証、但し甲第三号証により補正されたもの。以下右補正後の明細書を「本願明細書」という。)には、先ず、「一般に写真フイルム等の光学的情報記録材料では情報の記録及び取出のために、基材フイルムの透明性の高い事と、光の散乱や透過障害の原因となる異物を含有しない事が重要である」(本願明細書一頁末行~二頁三行)、「一方、基材フイルム及び製品フイルムの取扱のためにはフイルムの滑り性の良好な事(摩擦係数の小さい事)が必要である。」(同二頁下から三行~一行)と写真フイルム等の光学的情報記録材料の基材フイルムとしては、易滑性と透明性が必要とされることが述べられ、次いで、「従来基材フイルムの製造の場合には原料樹脂中に無機微粒子を添加したり重合触媒系を適切に選択して樹脂中に微粒子を生成させたりして、フイルム表面に微細凹凸を形成させている。この如き方法では微粒子が、フイルム表面層のみならず内部にも分数しており、この内層の微粒子は滑り性の向上にも役立たず、光学的情報記録材料に重要な透明性を悪化さすのみならず、必然的に存在する粗大粒子のために情報の記録、取出の妨げになる。」(同三頁七行~一七行(、「滑り性を良好(摩擦係数小)にすると曇り度が高くなると云う。前記光学的記録材料として望ましい方向と相反する傾向がある。」(同三頁下から二行~四頁二行)と易滑性、透明性及び情報の記録、取出しに及ぼす従来技術の欠点について説明され、「本発明は、これらの困難を解決するため鋭意研究し、光学的情報記録材として重要な滑り性の良好な事、透明性の良好な事、情報の記録、取出しに支障となる如き粒子を含まぬ事と云う特性を兼備した記録材料及びその製法に到達した」(同四頁七行~一二行)として、前記従来技術の欠点を解消することを技術課題として研究した結果、本願発明の特許請求の範囲1、2項の構成を採ることにより所期の目的を達成した旨説明されていること、本願第一、第二発明にいう「結晶性芳香族線状ポリエステルとしては、例えばポリアルキレンテレフタレート、ポリアルキレン―二、六―ナフタレート及びこれらを主成分とする結晶形成能力ある共重合ポリエステル等」(甲第三号証三頁一一行~一五行)が用いられることが認められる。

三 そこで進んで原告主張の審決取消事由について順次判断する。

1 取消事由(1)について

成立に争いのない甲第四号証によれば、第二引用発明は、表面にシリカを有する重合体成形製品及びその製造法に関するもので、「すぐれた光学的性質を兼ね備えた良好なスリツプ性を有する重合体製品を提供する」(甲第四号証二頁右上欄五行~六行)ことを技術課題とし、「成形製品の極性表面を水蒸気と接触させることによつて該極性表面に水を付着させる工程、及び水によつて二酸化珪素へ加水分解せしめることができる四管能性珪素化合物と上記の表面とを充分な時間接触させて成形製品の該表面上に二酸化珪素の分離した小瘤を形成せしめる工程」に従つて、「多数の分離した二酸化珪素の小瘤が製品の少なくとも一つの極性表面に結合されており、該小瘤を囲む区域は実質的に珪素質材料を有していない柔軟な重合体成形製品」(甲第四号証特許請求の範囲第二項)を製造するものであること、右製法に従つて製造された重合体成形製品例えばポリエチレンテレフタレートフイルムの「小瘤は、配向のためのフイルムの二軸的な延伸後にもそのまま保存される。……付着された二酸化珪素小瘤は、……これらを付着させるフイルム表面のくもり、透明性又は色に認めうるほどの変化を与えない。」(同五頁左下欄一〇行~右下欄三行)ものであり、かつ、「重合体成形製品は、著しく向上した表面スリツプ特性を示す」(同五頁左上欄九行~一〇行)ものであること、そして「たとえばポリエチレンテレフタレートフイルムは、通常は均一なロールの形成を妨害する平滑な粘着性の表面を示す。しかしながら、……二酸化珪素の小瘤を有する表面によつて表面を粗くする技術や重合体中の粉体充てん剤にたよることなく、良好なロール包装の形成を達成することができる。加うるに、……小瘤を有するフイルムは、未処理の基質と実質的に同一の光学的特性を示す。」(同五頁左上欄一〇行~右上欄三行)というものであること、同引用例には、「成形製品は普通にフイルムおよび繊維を用いる用途において有用である。たとえば、ポリエチレンテレフタレートフイルムは、磁気テープまたは写真用ベースとしてあるいは金属コーテイングのための誘電性基質に対して特に有用である。」(同五頁右下欄六行~一一行)との記載がある(右記載があること自体は原告の認めるところである。)こと、二酸化珪素小瘤を有しない基材フイルムのフイルム厚さ一二・五μにおける曇り百分率が順次〇・八及び一・三である基材フイルムを対照資料として、静摩擦係数が〇・四四及び〇・六のもののフイルム厚さ一二・五μにおける曇り百分率(曇り度)が順次〇・七及び一・三(フイルム厚さ五〇μで換算すると順次二・八及び五・二)である実施例が記載されていることが認められる。

そうすると、第二引用例には、平滑な粘着性の表面を有する例えば配向ポリエチレンテレフタレート(これが結晶性芳香族線ポリエステルであることは前記認定事実から明らかである。)フイルムのような重合体成形製品について、その光学的特性を損うことなく表面スリツプ特性を向上させた製品とし得ること、このような光学的特性と表面スリツプ特性を有するフイルムが写真用ベースとして特に有用であることが示唆されているということができる。従つて、第二引用例には「良好なスリツプ性と透明性を有する配向ポリエステルが写真用ベースとして有用である旨記載されている」とした審決の認定に誤りはない。

そして、第二引用例には、基材が本願第一、第二発明のものと同じ結晶性芳香族線状ポリエステルよりなるフイルムが記載されていることは前叙のとおり当事者間に争いがなく、前記のとおり第二引用例の実施例によれば、第二引用例記載のものは対照試料である表面に二酸化珪素の小瘤を有しないフイルムと曇り度の点において差はほとんどないものであり、曇り度が二%を超えるものが写真用ベースとして透明度が低過ぎることを認めるに足りる証拠はない(しかも、曇り度二%が臨界的意義を有することを認めるに足りる証拠もない。)。また、前認定の第二引用例の「本発明の小瘤を有するフイルムは、未処理の基質と実質的に同一の光学的特性を示す。」との記載に反し、表面の小瘤状突起が光線の散乱等をもたらすことを認めるに足りる証拠はない。従つて、第二引用例記載のものの写真用ベースとしての使用可能性を疑問とする原告の主張は根拠がない。

次に、写真用フイルムが光学的情報記録材料に含まれることは当事者間に争いがなく、本願第一、第二発明が光学的情報記録材料としては易滑性と透明性とが必要であることを前提として、従来技術によるものが滑り性を良好にすると曇り度が高くなるという欠点を有するためその解消を技術課題としたものであることは前叙のとおりであるところ、前掲甲第二、第三号証によれば、本願明細書の発明の詳細な説明の項には、「フイルムの滑り性が良好でないと基材フイルム、製品フイルムの製造、取扱中にしわが発生したり、摩擦摩耗による傷が付いたりして光学的記録材として欠陥の多い製品しかできない。」(本願明細書二頁末行~三頁四行)と記載されていること、本願明細書は写真用フイルムを光学的情報記録材料の代表的なものとして記載していることが認められ、成立に争いのない乙第二、第三号証によれば、本願出願前出願公告、出願公開された特公昭四三―一三三八六号公報及び特開昭四八―一〇一七七号公報には、優れた透明性と易滑性とを兼備えたポリエステルフイルムが写真乾材用フイルムに適する旨の記載があることが認められる。以上の事実によれば、写真用ベースを含む光学的情報記録材料の基材として易滑性が必要であり、このことは本願出願当時当業者にとつて周知であつたと認めるのが相当であり、成立に争いのない乙第一号証の二(二五九頁)の記載は右認定を妨げるに足りない。従つて、写真用ベースには易滑性は必要でない旨の原告の主張及び本願出願当時の技術水準から写真用フイルムの基材には易滑性は要求される性質ではなかつた旨の原告の主張はいずれも理由がない。

以上のとおりであるから、原告の取消事由(1)の主張は採用できない。

2 取消事由(2)について

(一) 第一引用例の記載内容が審決認定のとおりであり、本願第一、第二発明と第一引用発明とは審決認定の点で一致し、審決認定の点で相違することは前叙のとおり当事者間に争いがない。

成立に争いのない甲第五号証によれば、第一引用例明細書には原告指摘の取消事由(2)の(イ)の点の記載ないし光学的情報記録材料としての要求特性の記載がないことが認められる。しかしながら、右甲第五号証によれば、第一引用例明細書の発明の詳細な説明の項には、静摩擦係数及び厚さ五〇μに換算した曇り度並びに静摩擦係数と曇り度の積が本願第一、第二発明において規定された値を満たすポリエチレンテレフタレート延伸フイルムの実施例が次のとおり六例記載されていることが認められる(結晶化は、実施例4~6が一三〇度cの過熱蒸気、実施例7、8、11が一〇〇度c飽和蒸気使用、なお、実施例7に右の記載があることは当事者間に争いがない。)。

実施例番号  静摩擦係数  曇り度  静摩擦係数×曇り度

4      〇・八    一・四   一・一二

5      〇・四    一・六   〇・六四

6      〇・三    二・〇   〇・六〇

7      〇・五    一・四   〇・七〇

8      〇・五    一・四   〇・七〇

11      〇・四    二・〇   〇・八〇

そうすると、第一引用例には、本願第一、第二発明の構成を有する結晶性芳香族線状ポリエステルよりなる単層配向フイルムが開示されているということができる。従つて、第一引用例記載のものが本願第一、第二発明を想到し得る先行技術文献とはいえないとする原告の主張は到底採用できない。

(二) 第一引用発明は、前掲甲第五号証によつて認められる「フイルムの表面摩擦係数が小さく、しかも透明性の優れたポリエステル延伸フイルムを製造する方法を提供すること」(同号証一頁一欄下から一三行~一一行)を技術課題とし、第二引用発明は、前叙のとおり、優れた光学的性質を兼備えた良好なスリツプ性を有する結晶性芳香族線状ポリエステルを含む重合体製品を提供することを技術課題としているのであるから、両発明は技術分野を共通にするものということができ、これに反する原告の主張は採用できない。そして、前叙のとおり、第二引用例は、同引用例記載のフイルムが写真用ベースとして特に有用であることを示唆しているのであるから、第一引用例に開示された前記フイルムを写真用ベースを含む光学的情報記録材料の基材として使用することは、当業者であれば容易に考えつく事柄といつてよく、その旨の審決の判断に誤りはないといわなければならない。また、曇り度二%以下に限定したことについて臨界的意義は認められないのであるから、その使用により格別顕著な技術的効果が得られたものとも認められないとした審決の判断にも誤りはない。

(三) 従つて、原告の取消事由(2)の主張は採用できない。

四 以上のとおり、原告主張の取消事由はいずれも失当であり、審決にはこれを取消すべき違法な点はないから、原告の本訴請求を棄却する。

〔編註〕 本願発明の特許請求の範囲は左のとおりである。

1 静摩擦係数が一・五以下で、フイルム厚さ五〇μにおける曇り度が二%以下で、更にこの曇り度と静摩擦係数との積が三以下であり、かつフイルム表面に滑り付与層がコーテングまたはラミネートで設けられてない結晶性芳香族線状ポリエステルよりなる単層配向フイルムを基材フイルムとして用いて、これに光学的情報記録層を積層した事を特徴とする光学的情報記録材料(以下「本願第一発明」という。)

2 結晶性芳香族線状ポリエステルよりなる実質的に非晶未延伸フイルムの片面又は両表面に水蒸気を接触せしめ、これを配向せしめ、必要に応じて熱固定して静摩擦係数が一・五以下で、厚さ五〇μにおける曇り度が二%以下でかつこの曇り度と静摩擦係数との積が三以下である単層配向フイルムとし、これに光学的情報記録層を積層せしめることを特徴とする光学的情報記録材料の製法(以下「本願第二発明」という。)

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